** 男子生徒B


 オレってさ、遠足とか運動会とかそういう行事の前日って、興奮してなかなか寝付けないタチなんだよね。
 で、毎回いつも寝坊して、遅刻ギリギリで滑り込むとかマジで遅刻するとか、幼稚園の頃からずーっと続いてる訳。

 そんで去年。猛勉強の末に合格した立海の入学式の日にも寝坊してよ。あれはマジでヤバかった。
 母ちゃんに「中学生なんだから、いい加減自分で起きられるようになんな!」つって放置されてさ。自分はとっくに厚化粧完了させて準備万端! って状態なんだから、ヒデェよな。
 化粧したところで大して変わんねぇんだから、その時間使ってオレのこと起こしてくれてもよくね?

 まあ、それから一年が経って、春休み明けの始業式。
 二年に進級したオレにも後輩ができる訳だ。そうなるとさ、先輩としてやっぱカッコ付けたいじゃん?

 だから「この春からオレは新しく生まれ変わる!」って抱負立てて、始業式にはぜってー遅刻しねぇって決めたんだよ。
 寝付きの悪さを考慮して、前の日は夜の八時にベッドイン。充分睡眠取って寝過ごさないようにしてさ。この日のために三個も目覚まし用意したんだよ。でも、あれだ。幼稚園の時からの習慣はそう簡単に治るもんじゃねぇのな。
 ――― ああ、そうさ。寝坊したよ。寝坊したさ!
 寝坊したけどすっげーよく寝たから、寝起きは未だかつてないくらいスッキリしてたよ!

 お陰で母ちゃんに呆れられながら大急ぎで身支度して、今回もやっぱり学校まで全速力だ。
 掲示板で自分のクラスだけ確認して教室に駆け込んだら、今度はオレの遅刻癖を知る今年も同じクラスらしいダチにまで呆れられた。「生まれ変わる!」とか宣言しといてこのザマだもんな。肩身が狭いぜ。
 でもこのクラスには、どうやらオレ以外にあと二人、まだ来ていない奴がいるらしい。黒板に磁石で貼られた『来た奴から好きな場所に名前書いて座っとけ』って添え書きされてる座席表には、まだ三つ空白があった。

 一つは窓際の後ろから二番目の席で、二つ目がその隣。三つ目はそこから斜め後ろの、窓から三つ目の一番後ろの席。どれも最後まで残ってるのが不思議なくらい、超いい席だ。でもその空席に囲まれてる二席に書かれてる名前を見た瞬間、オレはどうしてこの席がまだ残っているのかを、嫌でも理解した。
 窓際の一番後ろの席に細くて綺麗な字で書かれた『』の文字と、その隣にちょい雑な字で書かれた『丸井』の文字。
 そこが示す場所を恐る恐る振り返ったオレは、その視線の直線上にいる人間がみんな、あからさまに目を逸らしたことにも気付けないくらい動揺して、我が目を疑った。

(マ ジ で か ……!!?)

 そこには去年一年間、たまに廊下で見掛ける度、その綺麗さについ足を止めていつも見蕩れてたさんと、二ヶ月前のバレンタインの時にさんと噂になった丸井の姿があった。
 しかも渾名の通り冷たい無表情が標準装備のはずのさんが、すっっっげぇ笑顔なんですけどおおおお!!?

 その上無表情だった時でも綺麗過ぎたさんが笑顔になった破壊力は半端なかった。
 さぞかし間抜けな顔してやっぱり見蕩れてただろうオレは、後から来た残りの二人が、オレと同じようにさんの笑顔を見て絶句したので逆に我に返った。
 そして肩を揺すって現実に引き戻した二人と、クラスが多い立海じゃ珍しくもない初対面同士だってのに、目を合わせただけで気持ちを通わせ、拳を握る。


「じゃんけん ――― !」

 この勝負、恨みっこなしで頼む!!
新学期 002*100418