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** 男子生徒C 唐突だけど、僕には幼馴染がいる。 いや正しくは、小学校の頃からかれこれ八年目を数える同級生の腐れ縁だ。 どちらかと言えば冷めた性格の僕とは対照的に暑苦しい奴で、典型的な体育会系と言えばわかり易いかもしれない。八年も同じクラスじゃなきゃ一生つるむことがなかったって言い切れるくらい、僕みたいな奴とは対極に位置するタイプの人間だ。 そんなアイツに、好きな人ができた。 アイツ曰く“親友”の僕にわざわざそれを報告してきた時は、思わず笑った。今でも思い出すだけで笑える。 いつになく真剣な顔で話があるって言うから、丁度話が佳境に入ってたところだったのに読書を中断して、こっちも真面目に聞く姿勢になったって言うのに。何を言い出すのかと思えば、まさかの恋バナだったんだから。笑わない訳がない。 だってアイツは考えるより先に身体が動く直情型で、気持ちが顔にも態度にも出る人間なんだ。 だから報告なんかされなくたって、僕はアイツの気持ちを既に知ってた。――― いや、僕だけじゃない。意中の相手が誰かを含め、当事者を除いたクラス全員の周知になってたんだから。 現にそのわかり易さは今日も今日とて、今現在だって変わらない。 「……見過ぎ」 「――― へっ!? な、何だって?」 「だから、さっきからさんのこと見過ぎ」 そう指摘してやった途端、アイツの顔はたちまち茹蛸みたいになった。 わざわざ報告して来た時に、呆れとからかい半々でその意中の相手がさんだって当ててやった時もだけど、この腐れ縁の慌てふためく姿はともかく、照れた顔なんて正直気持ち悪いことこの上ない。 まあ昔から男同士で馬鹿やってばかりで、もともと色恋沙汰に疎いから、初心なのは仕方ないんだけどさ。 でも流石に、休み時間どころか授業中もさんのことガン見してるのは、どうかと思う。席が前後だから必然的に視界に入るんだよね。あれは軽くストーカーっぽくて引く。ドン引く。 それでなくたって、この腐れ縁は自分のそのあからさまな態度が自ら不幸を招いてることに、全く気付いてない大馬鹿なのに。 無意識にまたさんのことをガン見してる大馬鹿者に、僕はため息が出た。 そして何の気なしにその視線をたどって僕もさんの方を見ると、その隣の席にいる丸井と目が合った。丸井はにやりと不敵に笑い、腐れ縁のことを一瞬見てから、さんの方を向いた。そしてさんの唇に指を押し付ける。 どうやら丸井は何かのお菓子をさんの口に押し込んだみたいだ。頬を赤らめるさんが口許を隠し、恨めしそうに丸井を見る。 すると丸井は、今度はさんの口の前にその手を差し出し、口を開くように促した。さんは最初ためらう様子を見せたけど、徐に丸井の手を掴んで顔を近付け ――― 丸井の指ごと、差し出されたお菓子を口の中に収めた。 時間が止まったような気がした。 丸井が椅子を蹴倒した音で我に返る。 「おおおお俺ジャッカルのとこ行って来るっ!!!」 「えっ、ま、丸井くん!?」 その髪の色と同じかそれ以上に赤い顔の丸井が教室を飛び出したのを見送って、僕は教室内を見回した。 すると丸井に勝るとも劣らない紅潮した顔の人間や石のように固まっている人間、挙動不審な人間など、今の光景を目撃したと思われる人間が多数見受けられた。多分僕も、顔が赤いと思う。冷静な振りしてるけど、だって心臓がウルサイ。 因みにバッチリ目撃していたこと間違いない腐れ縁に至っては、某ボクシング漫画の主人公のように、真っ白に燃え尽きてる。 何度か突いてみたけど、返事がない。ただの屍のようだ。 だけど実はああやって、まるで牽制でもするみたいに丸井がさんとの仲を見せ付けてくるのは、何も今回に限ったことじゃない。 この間さんが一週間も学校を休んだ時、無駄に旺盛な行動力を発揮したこの大馬鹿は、丸井の つまり唯一の活路の機嫌を損ねたことで自分の初恋を自分で枯らして、その自覚がない上に、自分で傷口に塩を塗ってるってこと。 いい加減その現実に気が付けばいいのに。 別に僕から教えてもいいんだけど、僕の性格上だと余計に傷を抉った挙句、塩を塗り込みそうだからな……。 (それに今回は、さんにまで強烈なの食らわされたしね) 仕方ないから、しばらくはこの大馬鹿な腐れ縁に優しくしてやろうと思う。 ……今回だけ、仕方なくだ。 日常の話 002*110121
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