** 丸井ブン太


 俺がその噂を耳にしたのは、四時間目の終わりと同時に教室を飛び出して向かった購買部帰り。
 ゲットした大量の戦利品を抱えて浮かれてた時だった。

「ねぇ、聞いた? さっきあの幸村くんが、“氷の薔薇”に告白したんだって!」
「ええっ!!? ホントに!?」
「ホントだって! 廊下の真ん中でさ、見た人が大勢いたんだから!」

 “あの”と言われるような幸村くんといや、俺が知る限り一人しかいない。同じテニス部で、同い年なのが信じらんねぇくらいすっげー強い幸村くんだ。
 んで“氷の薔薇”っつーのは、薔薇の花みたいに綺麗な外見で氷みたいに冷たくて棘がある態度のを表した、のことを何も知らねぇ、どっかのバカが付けたセンスゼロのの通称だ。

 つまり、今擦れ違った女子がしてた噂は幸村くんがに告白したってコトで、しかも目撃者多数の事実で……。

「はあああああ!!?」
「うおっ!? な、何だよブン太、急に大声出して。つかパン落ち ――― って、オイッ!!?」

 一緒に購買部に行ってたジャッカルが何か言ってたけど、構ってる余裕はねぇ!
 俺はダッシュで久瀬のクラスに向かった。途中で先生に廊下は走るなとか注意されたけど、んなコト知るか!

 だけど駆け付けたのクラスに、の姿はなかった。そういやって休み時間はいつも教室にいないんだった。
 もう一度ダッシュした俺は、今度はが昼休みをいつも過ごしてる美術室に向かった。だけど美術室は鍵が閉まってて、扉を叩いても中からの応答はない。だったらケータイで連絡つけようと思ったけど、ダメだ。は学校じゃいつもサイレントマナーにしてる挙句、鞄に仕舞って持ち歩かねぇから、連絡のつけようがない。

 探しに行っても擦れ違うのがオチだろうから、仕方なく、俺は美術室の前でを待ち構えることにした。
 そして部活で感じるのとは違う疲労感がどうにか拭えた頃、は現れた。


 まあ、結末を言えば噂はガセで、は幸村くんに呼び出しはされたけど、告白はされてなかった。
 いやだけど、ファンなんですってカミングアウトは、ある意味で告白か?

(つか、俺も腹減った……)

 買ったパン、持って来りゃよかった。
 んな余裕なかったけどよぃ。

 久瀬のメシをいつもジャッカルにしてるみたいに横取りしねぇように、俺は腕を組んで両手を押さえ付けて、黙って空腹に耐えた。
突然の呼び出し 003*091110