** 丸井ブン太


 ―――
 立海生で知らない奴はいない、それが、こいつの名前だ。


「丸井くんは何を飲むの?」
「……え? あ、ああ、スポドリ ――― スポーツドリンクって、いい! 自分で買うし!」

 俺の答えを聞いたが財布を取り出そうとしたのがわかったから、俺は慌てて、解かれそうになった手に力を込めた。

「ううん、いいから奢らせて。安いけど、今日誘ってくれた御礼と勝利のお祝いに、ね?」

 だけどそんな俺の抵抗を、はいとも容易く無にしちまう。
 本人には自覚が全くねぇみたいけど、はどっかの店先に並ぶフランス人形みたいに綺麗な顔立ちをしてんだ。ただ立ってるだけで人目を集める魅力的な外見だってのに、笑いながら首傾げるとかンな合わせ技、反則だろぃ!

 お湯沸かせんじゃねぇかってくらい赤くなってる自覚のある顔を隠すのに俯いて、俺は渋々、と繋ぐ手の力を緩めた。
 学年の女子の中でも背の高いより低い身長なのがいつもなら悔しいのに、よか頭が下にあるお陰で、俯くだけで顔隠せるから背低くてよかったって、今だけは思う。今だけは。すっげー癪だけど。

「はい、スポーツドリンク ――― あ、ちょっと待って」

 さっきまでと繋いでた手で差し出されたスポドリ受け取ろうとした俺は、一旦引っ込めたスポドリと自分の分のお茶を足元に置いたの奇行に首を傾げた。
 空いた両手で日傘を閉じてまとめたは、日傘の持ち手の紐に手首を通して、その腕で抱えるようにスポドリとお茶を持つ。財布の入った鞄も同じ腕に掛けてある。んで、スポドリを受け取り損ねたままだった俺の手に、さっきまで繋いでたのと同じ左手を絡ませた。
 因みに、はにかんだ笑顔のオプション付きだ。

「――― ッ!」

 だからっ、反則だっての!!
 確かには時々、やたらスキンシップを取りたがることがあっけど、いつも不意打ちで、自分の魅力に自覚ゼロだからタチが悪い。今だって、自販機は東屋の下にあって、後ろのベンチまでは五歩も歩けば余裕で着く距離しかねぇのに。
 手を繋いだって、すぐに離さなきゃなんねぇのに……。


 の差し入れは手作りのチーズケーキだった。
 俺がよくケーキバイキングに行くって話を覚えてて、クリーム系は持ち歩くのが大変と考えてのチョイスらしい。だけどもっと手軽に食べられて、腹が減ってんならお腹に溜まる物のがよかったんじゃないかって、自分の選択の甘さには肩を落とした。
 だけどこれはこれでお菓子好きの俺には嬉しいチョイスだし、一口食べて「美味い!」って絶讃したら、は今度は違う意味合いで肩を落として、ほっと笑った。笑ってくれた。

 のことを知らない奴なんて、立海には一人もいないけど。
 こういう本人も気付いていないような本当の“”を知っている奴は、俺しかいない。

 思考がネガティブになりがちのには悪いけど、俺はその密かな優越感に頬を緩ませた。
 あ、勿論、のケーキが美味いからってのもあるけどな!
新人戦観戦 003*091109