気付いた時、はクラウドの腕の中にいた。自分を抱き締めるクラウドの肩越しにエアリスに怪我はないかと訊ねられ、は訳がわからないまま頷く。
 ふと、は室内に濃い血のにおいが充満していることに気が付いた。抱き締められている状態では満足に首を回せなかったが、眩しいくらいに派手な内装は見慣れていないがために印象深くて憶えがあった。エアリスを救出した直後に罠に嵌って捕まった時、牢屋へ入れられる前に連行された部屋だ。確かプレジデント神羅の社長室だったはず。

 同時に神羅ビル内で突如起こった惨劇をも思い出したは、クラウドの行動にようやく得心がいった。
 の記憶は社長室に到着したところで不自然に途切れ、唐突に現在へと繋がっている。理由は自身にもわからないが、つまりは気を失っていたのだろう。建物のあちこちに惨殺された死体が転がる中で倒れていたということだ。余計な誤解を生み、心配させたことは明白だった。

「……ごめんなさい。でも、無事」
「……本当に頼むから、無茶はしないでくれ。心臓が止まるかと思った」

 抱擁を解いたクラウドはの肩に手を置く。は頷いた。

 立ち上がったは改めて室内を見回すと、ある一点に目を留めて顔を顰めた。社長椅子に座り立派過ぎるくらいに立派なデスクに突っ伏している赤いスーツの男は、ここへ連行された折に対面したプレジデント神羅その人だ。その身体には背中から長刀が突き刺さり、床には大きな血溜りが出来上がっていた。室内に満ちる血のにおいの大きな原因はこれだろう。
 確認するまでもなく死んでいる。左胸を心臓から一突きにされ、恐らく即死だろう。

「この刀は……」
「ああ、セフィロスのものだ」
「……セフィロスは生きてるのね?」
「そう、みたいだな。これを扱えるのは奴しかいない」

 クラウドは苦々しげに答えた。一方で、ティファはに視線を移した。

はここで何があったか知ってる?」
「……ない」

 一瞬脳裏を何かが過ぎったような気もしたが、何かはわからなかった。首を振ったにティファは「そう」と沈んだ表情で答え、プレジデントの死体に目を移した。
 各々が複雑な心境を抱える中、しかしバレットの表情は一人明るい。星の命を貪っている神羅を憎み、彼ら数人のアバランチを壊滅させるためだけにプレートを落下させ、仲間たちを殺した神羅が仇であるバレットにとって、誰がプレジデントを殺したかは大した問題ではないからだ。バレットにとって重要なのは『神羅のトップが死んだ』という結果だけだった。

「うひょ!」

 そこに、何ともひょうきんな声が響いた。
 振り返れば室内にある太い柱の影から丸々と太った白髪の男が姿を現し、社長室の出口へと駆け出そうとしていたところだった。しかし男はレッドⅩⅢに正面に回り込まれ慌てて方向転換し、もう一方の出口に向かおうとしたが足を縺れさせて転倒した。身軽とは言い難い体型のため当然の結果だろう。
 男が何者か知らないが内心首を傾げていると、それを察知したのかエアリスが耳打ちして、男は神羅の宇宙開発部門の統括でパルマーと言う名前だと教えてくれた。

 パルマーは怯えながら、セフィロスが現れたのだと語った。
 セフィロスは社長を殺すと、「約束の地は渡さない」と呟きながら静かに姿を消したのだと。


 その時、屋上のヘリポートに一機のヘリコプターが着陸した。
BUTCHER
ざんさつ
20090629