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 の病室が集中治療室から一般病棟に移ったその日、やはり彼らは現れた。
 ノックをする、なんてせめてものマナーを持っていない人間が大半を占めているため、その訪問は実に唐突であった。尤もそのマナーを持つ貴重な存在だって、この時ばかりはその常識が抜け落ちていた訳だから、全く意味などないが。


ちゃ ――― ぐふほっ!!!」
 スライド式の扉が開くと同時に、銀時はべちゃんと床に倒れた。

ー!!!」
 銀時が転んだ原因だろう神楽が、そんな銀時を容赦なく踏み潰し、ベッドに駆け寄って来る。

「ちょ、神楽ちゃん!? って銀さァァァァん!!!」
 そして一連の出来事に新八が悲鳴を上げた。

「ハッ、無様だな万事屋 ――― どぶあっ!!!」
 そんな、車に轢かれた蛙のような銀時の災難を土方は嗤い。

「マヨラーの分際で俺より先にに会わねぇでくだせェ。マヨ臭さが移りまさァ」
 後続の沖田はその土方を、銀時と同じ結末に導いた。

「ちょ、副長ォォォ!!?」
 そしてまた、今度は山崎が悲鳴を上げた。


 地面と接吻したまま動かない銀時と土方と、そんな二人に慌てる新八と山崎。ひとつしかない備え付けのパイプ椅子を巡って火花を散らし、ついには取っ組み合いを始める神楽と沖田。懐かしいと感じる賑やかさだった。
 だがひとつ言わせて欲しい。元気と喧しさは、イコールで結べるものではないのだと。
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「ゴラァァァァ!!! ンなに元気ならとっとと退院しやがれェェェェェ!!!!!」

 案の定、いつかの婦長の怒りを買った。
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 謝って済むことでは決してないけれど。深く謝罪したを、しかし彼らは意外なほどあっさり赦した。
 と壱の生い立ちを含めてすべての事情を知り、尚且つあれがの意に沿うものではなかったと知っているとはいえ、本当に、拍子抜けするくらいあっさりとだ。
 剰え、真選組である土方らは、件の出来事を『裏社会で起こった何らかの抗争』と上に報告したらしい。山崎がこっそり教えてくれたところによると、そのようにすると言い出したのは意外にも、を目の敵にしていた様子の土方だったそうだ。
 いくら御礼を言ったところで、土方がそれを認めることはないのだろうけれど。
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 半ば追い出される形で銀時たちが退院した後、迎えたの退院の日。病院を出たを出迎えたのは壱一人だけだった。
 そういえば今度のことは、万事屋に預けられていたを壱が引き取りに来たのを引き金に起こったと言っても過言ではなかったのだった。ということは自分が帰る場所はもう、万事屋ではないのだ。すっかり失念していた。
 だからあの三人がここにいないのは別に不思議ではないのに。少なからず傷付いている自分に、は戸惑う。

 するとそんなの胸中に気付いて、壱は苦笑した。
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「てな訳で、万事屋ここの近所に住むことにしたから、いろいろよろしくー!」
「いやいやいやいや!! 何が「てな訳で」? 全く訳わかんないから!!!」
「えー? 俺らの大体の事情知ってんだから察しろよな少年。だっての奴さ、退院の迎えに来たのが俺だけだって知ってチョー凹んでんの。俺だけじゃ不満なのかよって俺こそまじリアルに凹んだ」
、退院したアルか!!?」
「――― あ、やべっ」
「おいおいおい、壱サンよォー? 「やべっ」って何デスカー? 「やべっ」て」
「えー、だってお宅らに教えたら絶対に来てたろ? そしたら俺がといる時間減るじゃん?」
「壱さんはどうせこれからさんと一緒に暮らすつもりなんでしょう? だったらいいじゃないですか、少しくらい」
「よかったら教えてたっつーの」
を独り占めするなんてずるいアル!!」
「知るか、何とでも言え。とにかくそういうことだからヨロシク」
「おいこら、せめて住所ぐらい教えろ」
「断る。言ったら絶対、四六時中居座るだろ? いいか、あの家は俺との家なの。スイートホームなの。愛の巣なの!」
「うわー、僕生まれて初めて「愛の巣」って言葉を真顔で言ってる人に会いました」
「おい少年、お願いだからいつものテンションで突っ込みして。真顔の突っ込みとかリアル過ぎて普通に傷付く」

 だけど、何だかんだで四人は笑っていた。
20091023
祝200!
グダグダなのは番外的に続く予定だから!