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昼夜を問わない騒音に苦情が相次ぐ男の許へ、解決のためかぶき町町内会の代表として依頼に来たお登勢に連れられ、銀時たち三人が出て行ってから三十分ほどが経った頃だろうか。いつものように一人留守番をし、部屋の掃除をしていたは突如響き渡った騒音に驚いて首を竦めた。 換気のため窓を開けていたから、騒音はただでさえ大きく聞こえた。 (な、に……?) よくよく聞いてみれば、騒音は音というよりも声に聞こえる。 何を言っているのかまでは音が割れていて判断できない。しかしその声が酷く聞き覚えがあるような気がして、は何も言わずに窓を閉めた。 065
人と同じで二本の腕を生やし、二本の足で立つカラクリというのは、やはり人体とよく似た造りをしているらしい。心臓に当たる部分にはエンジンがあり、胃などの内臓のところには燃料を始めとした機能が搭載されている。全く知識がない分野だが、こうして見ると興味深いものがある。 (首を飛ばせば、やっぱり、『死ぬ』のかな……?) 周囲で銀時と神楽が騒ぎ、源外が怒鳴る中、新八と共に作業する手を止めることなく、実は内心でとても末恐ろしいことを考えるだった。 間もなく始まる祭りに、人々は着々と集まっている。 066
掴まれた腕を、は咄嗟に振り払った。まさか拒絶を受けると思っていなかった神楽は驚いて立ち止まり、振り返る。「? どうしたアル?」 「私は行けない」 「行けない? 行かない、じゃなくてですか?」 の言い回しに首を傾げる新八には首肯する。すると彼らは困惑を浮かべて互いに顔を見合わせる。 後ろでは渡した小遣いを手に、一目散に祭りに向かい駆け出したと思っていた銀時たちがまだいることに源外が不思議そうにしていた。 「私は行けない。人が多いところは、駄目」 「え、さんって人ごみが苦手だったんですか? 花見のときそんな風には見えませんでしたけど」 はただ、そっと、首を振るだけだった。 067
いいか、。人が多いところには近付くな。祭りとか幕府の式典とか、不特定多数の人間が集中するようなことには一切関わるな。近付くのも駄目。 日常生活を送る分には支障ないだろうけど、そういうところには必ず、よからぬことを考える連中が集まるもんなんだよ。 幕府が関わることなら尚更、確実に攘夷志士の連中が絡んでくる。一般人に紛れちまえば余程顔が知れてる奴でもなけりゃあ、誰が攘夷志士かなんて判断が難しいしな。どうしてもそっち側の人間が集まる。 これがどういうことか、わかるよな? は? それは命令かって? あー、。お前はさ、一体何回言ったら俺の言うことをわかってくれるワケ? 喧嘩売ってる? 今の俺とお前は『家族』なの。それはわかって……る、はずないですよねー。はい。俺が悪うございました。 ……ごめんな。 んー? 何でもない。 取り敢えずわかったか? ああ、もう命令でいいから。そう、めーれー。絶対に、約束だぞ? もし違えたら、その時は ――― 068
会場から上がる煙を遠くの民家の屋根から眺めて、は目を細めた。こうして起こった事態を見ていると、彼が言うことはいつも正しいと言うことをは感じ、彼に対する想いが大きくなる。 守るべき人だ。守らなければならない人だ。 だけど、彼はここにはいない。 (だけど、私は ―――) 20081216
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