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隣に座る総悟が若干不機嫌そうに、ご飯の御代わりを要求してくる。どうして彼が不機嫌なのかわからないは首を傾げながらも茶碗を受け取り、ご飯をよそって総悟に返した。 しかし総悟の不機嫌さも、彼の反対隣に座る黒髪の男と、土方と比べればそれほどでもない。 土方は下座に座る隊士たちの、他人の皿のおかずにまで手が及ぶ争いを見ながら、ゆっくりとだが箸を進めていた。一口食べるたびに眉間の皴が深くなっているようにには見える。 「……」 「? はい」 「おかわり」 「はい」 厨の片付けに追われて結局本来お願いしたはずの昼食を食べ損ねたためか、総悟の箸の進みは早い。 また新たにご飯をよそって、は自分の食事にも手を付けた。 055
「えっ、万事屋たち留守なの? 新八くんも? え、じゃあちゃんは? 一人? 留守番?」の料理を絶賛して綺麗に平らげた近藤は、今更になってが屯所にいる理由を訊ねた。 総悟に連れて来られたことを話し、すると銀時たちには連絡したのかと心配され、三人が今旅行に行っていると答えたら返されたのが大袈裟なくらいの驚愕と先の言葉だった。 「こんな可愛い娘一人置いて旅行とは、万事屋め、武士の風上も置けん奴!! そうだ、よかったら泊まってきなさい! 最近はふんどし仮面とか言うよからぬ輩が出るらしいし、女の子一人じゃ心配だ ――― はっ! 新八くんが留守と言うことはつまりお妙さんも一人と言うことか?! こうしちゃしておれん!!!」 まるで疾風のように近藤は去って行った。 夕食の礼なのか、こうして隊士たちの満場一致もあっては万事屋が旅行の間、真選組で世話となることになった。同時にその間の食事係も、何故かに決定していた。 に対して何かと絡んでいた土方は何も言わない。 056
空が東の方角から刻一刻と白み始めた頃だ。宛がわれた部屋を出たは厨に向かった。昨晩の夕食のことを考えると、彼らにはもっと量が必要のようだった。ならば時間も掛かるし、早目の準備が必要である。 「……」 襷を掛けながら、はまだ少し肌寒い厨を見回した。 056
とんとんとんとん、軽快なリズムで包丁がまな板を叩く。とんとんと、軽快なリズムが中途半端に途切れた。 「……あの」 ひとつため息を零したあと、は自分以外に誰もいない空間で、『誰か』に向かい呼び掛けた。しかし当然ながら返事などあるはずもなく無音が返り、はまたため息を零す。 くるりと振り仰いだのは天井。迷うことなくある一点を見つめたはまた、『誰か』に向かい呼び掛ける。 「出て来て、そこにいるのはわかってる」 しかしやはり返されるのは無音。 は天井を見つめ続けた。 「如何なる理由で私を監視するのかはわからないけれど、私に深く関わることはお互いにとって決していい結果を生み出さない」 傍から見れば怪しい光景だろう。 「これは忠告であり願いであり、真実でもある。私はこの国に仇為す存在ではない」 しかしは、見つめる先に『誰か』がいることを前提に話し掛け続ける。 「私たちはただ『普通に』生きたいだけ。だから、邪魔をしないで」 057
万事屋とは違い、真選組ではのすることが少ない。大人数の食事を一人に作らせているため、隊士たちが申し訳なさを覚えているためだ。掃除や食材の買出しなど、自分たちにできることは隊士たちが行ってしまい、に他の仕事が与えられないのだ。 (でも理由は、それだけじゃない) いくら総悟に無理矢理連れて来られて、近藤から滞在の許可が下りても。は所詮余所者だ。 万事屋にいるときと何も変わらない。ただ違うのは、距離を保とうとしているのがではなく彼らであると言う点だけ。しかしにとっては有り難いことである。微妙なその線引きを、あちらが行ってくれているのだから。 (だけど……退屈だな) 雀が囀り、風が頬を撫でる。 時の流れをゆっくりに感じるのは、生まれて初めてのことだった。 058
元は白かったのであろう。しかし雨風に晒され泥を被ってしまったのか、所々土汚れてしまっているそれを取り上げて、は首を傾げた。 (何、コレ……?) 作り物の羽根を筒状にし、根元の部分をゴムの半球で束ねている不思議な物体だ。 一体何に使用するものなのか、には皆目見当が付かない。しかし正月にする羽根突きの羽根に似ている。 思い立ったように草だらけの広い庭の草取りを始めていたはその手を止め、膝ほどまである草の陰に転がっていた不思議なその物体をじっと見つめた。しかし刻々と時間ば過ぎるばかりで、同時にの疑問も深まるばかりだ。 どんなに記憶を掘り下げても、の記憶にはないものである。本当に一体、何に使うものなのだろう。 「あーっ!!」 その声に、は驚いた。 思いの他深く考え込んでしまっていたらしい。ばっと振り返ると、そこには一人の隊士がいて、の手にある謎の物体を指差している。 「そのシャトル、前に俺がなくしちゃったヤツだ! どこにあったの!?」 「ここ、に……」 「そっかぁ、見つからなくて諦めちゃってたんだけど、よかった。ありがとう!」 20080108
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