037
 夕食の洗い物を終えたが、きゅっと蛇口を閉めた時だ。
 背を向けている居間への戸ががらりと開き、襷を解きながらは振り返った。

「ちょっと俺たち出掛けて来っから」
「す、すみません夕飯の片付け手伝わずに……!」
「行ってくるアルー!」

 ぞろぞろと出掛けて行く三人。
 しかしそれぞれの手にある大きな甲羅と緑色の全身タイツのようなスーツは一体何なのか。にはわからない。
038
 ただひたすらに日捲りカレンダーを捲り続ける新八の様子に、は首を傾げた。
 しかしその疑問を言葉にすることはなく、首を傾げるだけで終わる。
 するとそこに銀時のお茶を飲みたいという言葉がかかったため、は一旦台所へと下がった。

 人数分のお茶を持って戻ってくれば、新八の隣には一緒になってカレンダーを捲る銀時の姿があった。
039
 万事屋三人と今回の依頼人である少女を玄関先で見送ったは、台所に寄りお盆を持って居間へと戻った。
 湯飲み茶碗を片付けている時だ。どうやら忘れ物らしい紙がテーブルに置いたままになっているのを見つけて、はそれを手に取る。そしてその内容に目を通すと首を傾げた。

『男と別れろ さもなくば殺すトロベリー』

 殺すなど穏やかではない言葉が含まれているのに、いまいち恐怖感に欠ける脅迫状だ。
 最後の脅し文句に付けられた片仮名をはじっと見つめる。

「殺す、トロベリー。ころすトロベリー、ころすとろべりー……ストロベリー?」

 どうしてイチゴ?
 には怪文書にしか見えなかった。
040
 が買い物から戻れば、出掛ける前まではあった三人と一匹の姿がなかった。
 するとそこに家賃の取り立てにお登勢が現れ、もぬけの殻である室内を見てアンタも苦労してるねぇと肩を叩かれた。

 そして今。お茶でもどうだいと誘われて訪れたスナックお登勢にて、キャサリンの隣に座ったは言葉が出なかった。驚愕ではなく、呆れによるものだ。お登勢とキャサリンの叫びを背景にはそっとため息をつく。
 テレビ画面に表示された『しばらくお待ちください』の文字はなかなか解除されない。
041
ちゃん、ヒモどこ紐。ビニール紐」
「それなら押入れの下段に、手前の方です」
「んー……おっ、あったあった」

 の掃除も手付かずであった自身の愛読書である週刊少年漫画の処理に、どうやら銀時はようやく乗り出したらしい。部屋の隅に肩身狭く、しかし強い存在感を持って居座っていた一角の掃除がはようやく行えるのだ。
 銀時がそれらを纏めている間、は奥の和室の掃除を行うことにした。そして途中、誰かが外へ出て行く音が聞こえて、和室の掃除を終えたが居間に戻ると居間からは銀時の姿が消えていた。ついでに漫画も。

「銀ちゃんなら縛った漫画捨てに行ったアル」
「今……?」

 定春を撫でる手を一旦止めてを見た神楽は頷いた。
 その返答には頬を掻いて物言わぬ玄関を見やる。

(古紙の日は水曜日だけど……)

 案の定、外からお登勢の怒鳴り声が聞こえた。
042
 銀時が漫画を捨てに行ってから随分経つが、未だに銀時は戻らない。
 もしかしたらそのまま出掛けたのかもしれないと思い、も神楽も特に気に止めることはせず、漫画が消えた一角を掃除し終えたはお茶を淹れて腰を落ち着ける。そしてふうっと息をついたときだ、電話が鳴り出した。

 電話に出た神楽は頷くばかりで、最後に「わかったアル」と何事か了承すると受話器を戻してを振り返る。

はめ組とか言うのがどこにあるか知ってるカ?」
「め組? 知ってるけど……」
「銀ちゃん迎えに行くアル!」

 「迎えに行く?」とオウム返しにくり返したの言葉は神楽に届かない。
 は神楽に手を引かれて、玄関で丁度出くわした新八に留守番を任せて訳もわからないままめ組への案内を任された。
043
 め組とは一体何か、どうやら知らないらしい神楽には簡潔に火消しのことだと答えた。
 そこでふと、つい先日回ってきた回覧板の内容を思い出す。近頃この辺りのゴミ捨て場で放火が多発しており、それに関する注意と不審者を見かけた場合すぐに通報するようにといった旨が書かれていたはずだ。

「このドラ息子ォォォ!!!」

 目的地が近付き、前方に銀髪天然パーが見えた途端、神楽は駆け出しその後頭部に見事な飛び蹴りをお見舞いした。
 銀時に馬乗りになり往復で平手を繰り出す神楽の許にが追いついたときには、銀時の両頬は見事なまでに赤く腫れ上がっていた。取り敢えず、万事屋に戻ったらすぐに氷を用意する必要がありそうである。
20071228