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 黒雲広がる空の下、場違いなほど清らかな音がひとつ、鳴り渡る。
 まるで(いざな)うかのように。暗がりを照らす灯火代わりであると言うかのように。音は止まずに奏でを続ける。


――― リィン


 ひとつの音色に誘いは数多。
 断ることは決してできず。否応なしに引きずり込まれる、復路のない深淵への一本道。

 そしてほら、またひとつ。


――― リィン


 さあ、いざ参りましょうか。
 道案内は御任せを。付いて来なされこちらへと。
 御招き致そう安息へ。永久(とわ)に続く眠りへと。


――― リィン


 どうかどうか、安らかに。
20070821