「あの〜、二人共いい加減立ち上がったら?」 完全に耳馴染みのない女性の声が掛けられ、顔を上げたクラウドの視線をたどって振り返ったはそこでようやく、この場所に自分たち以外の人間が存在していることに気付いた。白のタンクトップを着、長い髪の毛先の方を縛る女性が、カウンター越しにこちらを覗き込んでいる。 が反応するより先に動いたクラウドに軽々と身体を抱え上げられたは、カウンター席の椅子にそっと降ろされた。次に一脚だけ倒れている椅子を起こしたクラウドは、カウンターの女性に声を掛ける。 「ティファ、悪いが救急箱を借りられるか? の足の傷が開いてる」 「わかった、ちょっと待ってて」 「すまない」 二人は親しげに言葉を交わし、クラウドにティファと呼ばれた女性はにちらりと一瞬視線をくれると階段を上って行った。尻尾のように揺れる彼女の髪が見えなくなる。 ふと足に何かが触れては視線を戻した。床に膝を着くクラウドがの足に巻かれた包帯を解いていた。傷が開いたと言っていた通り包帯には血が滲んでおり、は今更になって痛みを自覚した。階段を転げ落ちた時にぶつけたところも同時にずきずきと痛み出し、その一つである膝には既に拳台の痣ができていた。もともと肌が白いこともあり非常におどろおどろしく映る。 「機関銃を持っている敵の前に飛び出すし、奇跡的に軽傷で済んだと思えば気を失って、目を覚ましたと思ったらまた傷を作って……。は何度俺を心配させれば気が済むんだ?」 「……え?」 「が戦えるのはわかっているが、頼むから少しは自重してくれ。これじゃあ心臓がいくつあっても足りない」 心労を感じさせるため息と共にそう吐き出したクラウドに、は困惑した。 脳裏をザックスの影が過ぎる。ミッドガルまでまだまだ遠い地を進んでいた頃、一人で追っ手を殲滅しに行ったにザックスも同じようなことを言い、を叱ったことがあったから。 そして何より、クラウドの発言がにはいまいち解せなかった。 あの丘からここまでの経緯はクラウドが言うように気を失っていたから覚えていないのか何なのか、それにしても違和感を拭えず、はクラウドの顔をまじまじと見つめた。視線気付いたクラウドはを見返し、そこに反省の色が見えないと知るや否や、顔を顰める。 「おい、? 聞いてるのか?」 「……クラウド、……だ、れ?」 「は? ……、さっきから大丈夫か? 俺が誰か、自分が誰かわかるか?」 「わたし……。クラウド、は、……クラウド」 「ああ、そうだ。俺はクラウドで、はだ。俺たちは何でも屋をやってる。覚えてるか?」 ――― 違う! 咄嗟に飛び出そうとした叫びを、は寸前で呑み込んだ。そして気付く、違和感の正体に。 (ザックスが、いる……) あの時確かに死んだはずのザックスが、クラウドの中にいる。 ちょっとした仕草、を嗜める声の抑揚、瞳に宿る光、すべてではないものの言動の端々に、短くも濃密な時間を共有したザックスの存在が感じられた。 「 」 音にならない唇で言葉を紡いだは半ば圧し掛かるように、しゃがんでいるため低い位置にあるクラウドの肩に腕を伸ばし、頭を抱き込んだ。 先程の飛び付くようなものとは違う、包み込むような抱擁を受けたクラウドが腕の中で戸惑っているのを感じながらも、は構わなかった。ただただ、彼が生きていることが嬉しくて、だけれど死んでしまったことが哀しくて、触れた熱が温かくて。はまた泣いた。 |