五年前のあの日、ニブルヘイムは業火に包まれた。 人々が寝静まった時間に起こった惨事だったために、住人の多くは逃げる間もなく炎に焼かれて亡くなり、クラウドの母もその一人だった。 クラウドが駆け付けた時には既に遅く、壁が焦げ付きながらもどうにか形を保っていた外観に引き替え、中は玄関扉が焼け落ちるほどの炎が燃え盛り一歩として踏み入れなかったのを憶えている。 そして辛くも炎から逃れた数少ない住人たちは突然の凶行に及んだセフィロスの凶刃に倒れた。ティファの父親がその一人だ。 ――― 五年前のあの日、ニブルヘイムは滅んだのだ。 「どういうこと……?」 覚束ない足取りでゲートを潜ったティファは誰に向けて言うでもなく呆然と呟く。 クラウドもティファと同じ気持ちだった。 村の入口であるゲート脇に打ち捨てられた錆び付いたトラック。広場の中央にある給水塔。宿屋に道具屋、顔見知りの住人たちが住んでいた家々。村にある何もかもが、今や記憶の中にだけ残る故郷と重なった。 ただ唯一違ったのは、まるでずっと昔からここで暮らしてきたかのような顔でクラウドたちを出迎える住人たちだけだ。 「おい、村は全部燃えちまったって言ってたよな?」 「……ああ」 怪訝な顔でバレットが確認してくるが、クラウドにだって何がなんだかわからなかった。 まるですべてがクラウドの妄想だったかのようにニブルヘイムは今も存在し、人々の平穏な生活が当たり前のように営まれているのだ。しかしあの出来事すべてが夢だったと思うには、あの日の記憶はあまりに生々しい。 だってクラウドは、今でも鮮明に憶えているのだ。 肌を舐めた炎の熱さも。故郷、家族、すべてを一瞬で奪われた悲しみや怒りに気が狂いそうになったことも。滾るように一瞬で爆発した憎しみに胸が焼き付きそうになったことも。何もかもすべて。 「調べてみよう」 「調べるって、具体的にどうするの? 住人に訊いて回るにしても……」 「この村は五年前に滅びたはずなんですけど〜って、いきなりそんなこと訊いたら狂人変人扱いされるだけじゃん?」 言葉を濁したエアリスに対して、ユフィは歯に衣着せることなく言い切った。 被害者を目の前にあまりに不躾な言い草だったため、エアリスは視線でユフィを咎めたがユフィは気に止めず、クラウドも構うことなく首を振る。 「住人には訊くだけ恐らく無駄だ。それより神羅屋敷に行こう」 「神羅屋敷?」 「村の一番奥の外れにある。火の手から離れていたし、多分残っているはずだ」 五年前の惨劇はセフィロスの手によって引き起こされた。 そしてセフィロスの豹変は神羅屋敷の地下で、謎の研究資料を見つけたことから始まった。だから屋敷を調べれば、この村の異様な現状について何かわかることがあるかも知れない。 クラウドの先導で村の奥に向かう仲間たちの背中をはしばらく見送った。 すると立ち止まっているにレッドⅩⅢだけが気付き、彼は立ち止まってを振り返る。 「、どうかしたの?」 「…………ない」 ぐるりと視線を巡らせてから、端的な否定に合わせては首を振り、ようやく歩き出す。 仲間たちの姿は既に見えなくなっていたが、狭い村だし、獣の嗅覚を持つレッドⅩⅢがいるため道中の心配はない。ただそれよりも、今のの胸には魚の小骨のように引っ掛かる違和感があった。 活気があるとは言い難い、子供の姿が見られない静かな村を歩きながらもう一度ぐるりと見回して、は正体のわからない違和感に首を傾げた。 クラウドとティファの故郷だという滅んだはずの村、ニブルヘイム。 知らない、今回訪れるのが初めてのはずの場所なのに、見覚えがあると思う自分がいた。 |