「あの……」 躊躇いがちに掛けられた声に、は首を傾げた。 口数が少ないなりの先を促す動作に、それでもティファは躊躇い、視線を彷徨わせる。はただ静かにティファを見つめて言葉の続きを待った。 「……ごめん、やっぱり何でもないわ」 けれど結局ティファは口を閉ざし、おやすみなさい、と部屋に戻って行った。 どうにかミッドガルから脱出し、ここカームに来るまでも碌に休息を取れなかったから、疲れが溜まった仲間たちは以外全員が既に部屋に入っていた。中にはもう既に寝付いている者がいるかもしれない。 は陽が暮れて客足が期待できない営業に欠伸を零す店主の前を通り過ぎて外に出た。 露出が多いの服は夜風が身に沁みて、思わず身震いする。しかし中に引き返す気は起きなくて、は構わずにそのまま、宿から程近い街の入口に立った。夕暮れは西の空にわずかに残るだけになっている。 もうすぐで完全な夜が訪れる。 「……っ、……」 胸が張り裂けそうに痛んだ。違う、と、もう幾度、声なき声で叫んだかわからない。 泣いて、叫んで、否定して。できないとわかっていながら焦がれる、臆病で身勝手な己には泣くことすら罪に思えて、は唇を噛み、空を仰いだ。 五年前、クラウドとティファの故郷で起こった惨劇。 英雄と謳われた男の狂気、凶行。 ――― 語られなかった『彼』の存在。 違うよ、クラウド。 君は確かに君だ。だけど、わたしは本当の君を知らない。 |