膝に乗る金色の髪を梳くように撫でながら、彼女はいとおしげに目を細める。 普段は虚ろを彷徨う金髪の青年の瞳はまどろみ、今にも閉じて安らぎへ落ちようとしていた。触れる熱と優しい手付きがこの上ない安らぎを与えてくれる。 そこにもう一人、黒髪の青年が現れた。すると髪と撫でていた彼女の手が止まり、離れていてしまう。 金髪の青年は落ちかけていた深淵から引き止められた心地になり、離れた熱の惜しさに声を漏らした、そして黒髪の青年が彼女の隣に腰を下ろすと、金髪の青年の頭に彼女の優しい温もりが戻った。 再び誘われる、安らぎと言う名の底のない谷へ。 金髪の青年は彼女の膝と片手を。黒髪の青年は彼女の肩ともう片方の手を。そして共に温もりを。それぞれ浸り、堕ちてゆく。この上ない安息の揺り籠に揺られて、包まれて。深く、深く。恐れなど必要のない闇へ。 そこには厳密なものなど何ひとつなかった。 ただ漠然と、その記憶は感覚として知っていた。 当たり前なものとして捉え、その意味も理由も深く考えたことがなかった。 当たり前であることが当たり前だと思い込んでいた。 だが今ならわかる。知っていて当然であり、思い込むこともまた道理だった。 自分は彼女の手と温もりに、ずっと護られていたのだから。 「クラウド」 懐かしいものに溢れていた。 自分を呼ぶ彼女の声。触れている彼女の温もり。髪を梳くように撫でる彼女の優しい手。 感覚的な記憶とそれらは、何もかもが同じだった。 「」 ライフストリームから還った青年が見たものは、あの頃と何ひとつ変わっていなかった。 いとおしげに細められた瞳。 柔らかな膝の温もり。 髪を梳く優しい手付き。 変わることなく、護られ続けていた自分。 |