胸の内で重なって脈を打つ鼓動には固く拳を握った。 この下の階で謎の首なし死体を見た瞬間から始まった同調は不可解で不愉快な感情しか齎さない。それが目の前の男を見てからますます酷くなった。 ほうじょう、と呼ばれた男。 初めて声を聞き、姿を見て、名前を知った相手のはずなのに。何故だろう、既視感を覚える自分がいた。この男の声を聞くのも姿を見るのも名前を知ったのも今ではない以前の出来事のように感じる。 そしてどうしてだろう。 この男を殺したいほど憎いと感じている自分がいる。 色を失った彼の最期を思い出す。 彼とこの男との共通点など髪の色ぐらいしかないのに。 似ても似つかない忌まわしい存在を見て彼を思い出すなんて冒涜だ。 (――― いまわ、しい……?) ふと過ぎった己の思考には驚く。 いくら神羅でもマッドサイエンティストとして知られる男だといっても、がこの男のことを知ったのはつい先程のことだ。マッドサイエンティストである由縁などを聞いたわけではなく、ただそう呼ばれていると聞いただけでしかない。 それでどうして『忌まわしい』と評価するのだろう。マッドサイエンティストに対する偏見だとしても、はこの男以外にそういった人間の存在を知らないのだから偏見を持ちようがない。 では何故、忌まわしいと知っている? では何故、こんなにも殺したいと思っている? 憎む? エアリスの存在を蔑ろにされたからにしては理由として不十分だ。 彼女がたとえ ――――― だとしても、が守りたいのは彼女ではない。 そんなの思考を中断させるように、視界が緋色に覆われる。 先程までエアリスを脅かしていた緋色の鬣を持つ獣が宝条に襲い掛かっていた。 |