口数が少なく口下手でもあるが言いたいことを汲み取ることは困難を極める。 たとえ意思を告げられても、不足が多い文章は構成もおかしく、理解が難しいのだ。表情だってあまり変化がないから、何も告げられなければそれこそ何一つわからないと言うもだ。無言を通されれば手の内ようもない。 「……」 顔を見るまでもなく不機嫌だとわかる相手に、だからクラウドができたことと言えば困り果てた声音で彼女の名前を呼ぶことだけだった。 しかしそれでもは無言を通す。これは相当怒っている。クラウドはどうしたものかと頭を掻き、無意識につきかけたため息を寸前で呑み込んだ。今ここでため息をつこうものなら、の機嫌が益々降下するのは間違いない。 「なあ、。その……何を怒ってるんだ? 不満があるなら言ってくれなきゃわからない」 「……」 「俺の何が気に障ったんだ? 言ってくれれば直すように努力するから、言ってくれないか?」 少なくとも、バレットたちアバランチを手伝って壱番魔晄炉を爆破しに出掛ける前までは普通だったはずだ。 ……いや、その時からは既に不機嫌だった。 見送りを碌にしてもらえず、さっさとセブンスヘブン店内に入ってしまって正直落ち込んだのだ。気になりすぎて仕事中もバレットたちに指摘された。無論その所為でヘマをするような真似はしなかったが。 いつからは『ああ』だった? クラウドは今日を、そして昨日を遡った。そしてひとつ、思い当たるものがあった。 「……もしも今日置いていったことが気に障っているのなら、俺も譲ることはできない。魔晄炉を爆破させに行ったんだ、ソルジャーと遭遇して戦闘にでもなっていれば命に関わる。そんな危険だとわかっている場所に、むざむざ連れて行くことはできない」 それまで弱気だった態度を一変させ、クラウドは強気になって言う。 魔晄炉は神羅の機関の一部だ。そして神羅には戦闘のプロフェッショナルであるソルジャーがいる。 一般人よりも少し戦えると言うだけでしかない義勇である反神羅組織 ・アバランチの面々が勝てる相手でなければ、元ソルジャーである自分でも最悪の事態を考えられた。だから確実に安全であるここに、敢えて置いて行ったのだ。 を思っての行動で、の機嫌が損なわれ理不尽に扱われている。 そう考えたクラウドこそ、不機嫌になっていった。 「…………おなじ」 「同じ……?」 すると静かに、ようやくが口を開いた。 はゆっくりと振り返る。そしてクラウドは驚いた。不機嫌に顰めっ面を浮かべていると思っていたが、それどころか泣きそうに顔を歪めていたから。 予測していなかったことにクラウドは動揺した。するとクラウドの動揺に気付いたのか、はまた顔を背ける。 ――― が見せていた顔は不機嫌さを表していたのではない。泣きそうに歪む顔を堪えようとして浮かんだ表情だったのだ。クラウドは今更になって気が付いた。 まさかがそんな表情をするとは思わなかった。普段はあまり表情に変化がなくて、だけど時折悲しげに、微かに微笑んで。 第三者がいればそれこそ失笑するくらいクラウドは動揺して狼狽える。動揺のあまり言葉を失い、立ち尽くした。向けられている背中が、そこだけが雨模様に見える。 「クラウド、危険。傍じゃ、いと……護れない。護りたい。護らなきゃ……まも、せて……」 「……!」 どんどん声を震わせていくに堪らず、クラウドは手を伸ばした。 触れた瞬間は肩を跳ね上がらせたが抵抗はしない。それどころか逆にきつく、抱き付いてくる。クラウドの胸に顔を埋めて肩を震わせた。そんなをクラウドもまた抱き締める。 「いか、いで……だめ、離れたら…………護れない……!」 「……」 背中に回されぎゅっと握る手が、まるで「放さない」とでも言っているようだ。 湿り気を帯びる服にクラウドは胸を締め付けられる思いになる。のためを思ってしたことが、他でもないを傷付けてしまった。 護りたいのに。を。そしても自分と同じ気持ちでいてくれているのに、自分はそんなの思いを蔑ろにしてしまった。もし自分がの立場であればどれだけ辛いか、想像もできない。そんな傷をに負わせてしまった。 「ああ、わかった。もう置いて行ったりしない。一緒にいるから、だから泣くな」 否定できるはずがなかった。 自分だって、にこの思いを否定されたくない。クラウドもを護りたいのだ。がクラウドを護りたいと言っているように。だからクラウドは受け入れる。を護るために。 この約束の言葉がにとってどれほどの意味を持つものなのか。 この時のクラウドは知る由もなかった。 |