すごくすごく、耳障り。 すごくすごく、不快。 すごくすごく、今すぐ消し去りたい。 「?」 呼ばれてはじめて、は自分がいつの間にか立ち止まっていたことに気が付いた。 顔を上げると、気遣わしげに自分を見ている綺麗な碧色と目が合う。胸の内にあった燻るような不快感がすっと引いていくのを感じる。 「? どうした、疲れたか?」 「疲れ……? ……疲れ、ない」 「そっか、じゃあどうした? 歩くの速かったか?」 彼は何を言っているのだろうか、とは思う。 その肩に背格好が変わらない成人を担ぎ、全体重を預かっていると言うのに。歩みが遅いと言うことはあっても、速いと言うことは在り得ない。それなのにそんな馬鹿げたことを訊いてくる。 けれどそれがザックス・フェアと言う人間なのだと言うことを、は短い期間で理解していた。とても好感が持てる、呆れるくらいに好ましい人間だと思う。 はザックスの言葉を首を振ることで否定し、来た道を振り返る。 ザックスも何か勘付いたのだろう。身を強張らせたのをは気配で感じ取る。感じ、取れてしまう。 「くそっ、もう追い付いて来やがったのか! はクラウドとここで」 「行く」 「は? ――― ちょっ、!!?」 が何を言ったのか、聞き取れなかったザックスが近くの木の根元にクラウドを下ろそうと動作しながら顔を上げた。そして見たのは、来た道を駆け戻るの背中だった。 ザックスはすぐにの後を追おうとした。けれど視界の端に眩しい金色を映し、思い止まる。今自分まで行けば自分の足で立つことができず、意識も定まっていないクラウドをここに一人残していくことになる。かと言ってクラウドを連れて行くこともできない。 「あーあーあー!」 ぐしゃぐしゃと頭を掻いて、ザックスは仕方なく、クラウドの隣へ腰を下ろした。 今の自分にできることはを信じて待つことだけだ。たとえこれが命懸けの選択であったとしても。 「なら大丈夫だって、なあクラウド? でも戻ってきたら、ガツンッと言ってやらないとな!」 意味のない音ばかりを漏らし続ける親友に、ザックスは笑い掛ける。 青い服は軍服。それを纏う者たちが二十人弱。ある者は銃を持ち、またある者は剣を持ち。 彼らは身を潜めながら森を進み、視線を周囲に巡らせる。それは何かに警戒するのではなく、追い求める目だった。獲物を追う、狩人の眼差し。 しかし、けれど。 獲物と狩人。果たして追われているのは、一体どちらなのだろうか。 「敵襲だ!!」 「目標発見! 数は一、他はどうした!?」 「クソッ! ちょこまかと ――― ぎゃああああ!!!」 「一人相手に何を ――― ゴハッ!!」 獲物と狩人。その境界は一体、どこにあるのだろうか。 断末魔の声は雑音。だから突き刺し、断ち切る。 |