火の手を逃れ五年前よりも古びたものとなった神羅屋敷は、屋敷と言うだけあって広く部屋数が多い。そのため仲間たちはそれぞれに散って探索を始め、クラウドはあの日セフィロスが消えた地下へやって来たのだけれど。 扉を開けると同時に足許で低く舞った埃にクラウドは顔を顰めた。 屋敷の門から玄関まで雑草が生え放題になっていたことから考えて、少なくとも年単位で人の出入がなかったのだ、埃っぽいのは仕方ないだろう。それよりも地下の湿った空気で埃が舞い上がらないことを有り難く思わなければ。 扉のすぐ脇の壁にあるスイッチを入れたが残念ながら電気系統は死んでいるらしく、天井の照明はただ静かにぶら下がっているだけだった。 仕方なく手持ちのひとつしかないランプで辺りを調べると、ビーカーやフラスコに占領された机にアルコールランプを見つけて、気が進まなかったがそこにランプの火を移した。灯りが増えたことで先程よりも室内が明るく照らされる。 室内はクラウドの記憶の中にある最後の光景よりも物で溢れ返っているように見えた。 入口から程近い場所には人間ひとりが余裕では入れる大きさのポッドが二つ並んで置かれ、ポッドのガラスはどちらも粉々に割られていた。近くにあるコンソールには破壊された痕跡がある。どちらもクラウドの記憶にはないものだから、あの惨劇の後に余所から持ち込まれ、何者かによって破壊されたのだろう。 惨劇以降に人の出入があったということは、この部屋を調べれば今あるニブルヘイムについて何か情報が掴めるかもしれない。 「――― ?」 と、クラウドは部屋の出入り口に立ち尽くすに気付き、眉間に皴を寄せた。 直感でおかしいと思った。頼りない光源でははっきりとの顔が見えなかったが、の様子の変化をクラウドは感覚的に察知する。 「、どうか ――― っ!?」 彼女の許へ戻ろうとした、その時。 薄暗い部屋の更に奥まった場所に『何か』を見た。クラウドはすぐさまその反射神経で振り返り、油断なく身構える。そして息を呑んだ。 「セフィロス!」 見間違うはずのない後ろ姿が、そこにあった。 奥まで明かりが届かないためセフィロスの顔は見えない。しかし彼の長い銀髪がわずかな光を反射させ、彼がこちらを振り返ったことを教えてくれる。セフィロスは室内を見回すように、首を巡らせたようだった。 懐かしいな、ここは。わずかに笑みが滲んだ声でセフィロスは呟く。 「ところで、お前はリユニオンには参加しないのか?」 「リユニオン?」 「ジェノバはリユニオンするものだ。ジェノバはリユニオンし、空から来た厄災となる」 「空から来た? ジェノバは古代種じゃないのか!?」 クラウドの言葉に、セフィロスは肩を震わせて笑った。 感情の見えない笑い声が地下と言う密閉空間に木霊し、不快感にクラウドは顔を顰めた。 「どうやらお前には資格がないらしい」 「それはどういう ――― !!?」 詰め寄るようにクラウドが一歩踏み出した瞬間だった。セフィロスの手から放たれた硬質な何かがクラウドの鳩尾を捉え、一瞬息を詰まらせたクラウドは膝をついた。 その隙にセフィロスはクラウドの脇を抜け、出入り口に向かう。クラウドはすぐに後を追おうと振り返り ――― 瞠目した。クラウドの手から転がったランプが未だ部屋の出入口に立ち尽くすの近くに転がり、照らし出された彼女の頬が涙に濡れていたのだ。 本来漆黒であるはずが今は魔晄の輝きを秘めた瞳は瞠られ、セフィロスを、セフィロスだけを映して逸らされることがない。 「」 まるで恋人に愛を囁くかのような声音で、セフィロスは知るはずがない彼女の名前を呼んだ。 それには一度大きく肩を揺らし、唇を震わせる。だが半端に開いた唇から音が漏れることはなかった。 セフィロスは手を伸ばし、涙を拭うようにの頬を撫でる。 「北へ」 たった一言そう告げて、セフィロスは立ち去った。 |