ほとんど肩に担ぐ状態だったクラウドをザックスは岩陰に下ろし、寄り掛からせる。
 はそんなクラウドの傍らにしゃがむと徐に手を伸ばし、額に掛かるクラウドの見た目よりずっと柔らかい金色の髪を払った。

「クラウド、疲れた?」

 今日は今までで一番の道のりを歩いた。それもこれも身を潜められる場所がない平原を今日中に抜けるためだったのだが、その疲労は相当なもののはずだ。
 いくら間近で見ても焦点が合うことのない虚ろな目をしているクラウドがには疲れているように見えて、は眉間に皴を寄せる。そして身体を反転させて、足を伸ばした状態で少し距離を開けたクラウドの隣に腰を下ろした。
 そっと引き寄せたクラウドの頭を太腿へ乗せる。堅い地面や岩に身体を預けるよりも、こうした方がゆっくり休めると思っての行動だった。

「おっ、クラウド、に膝枕してもらうなんて羨ましい奴だなぁ」

 その光景を見たザックスが楽しげに言った。そんな一見寛いでいるように見えるザックスが、普段を装いながら気を張り詰め、周囲を警戒していることをは知っている。
 頭部だけでも十分重いと感じる、体躯の変わらない人間の全体重を預かり、モンスターや追っ手に遭遇すれば率先して前に出て戦うザックスが、三人の中で最も疲労が大きいはずなのに。

「ザックス」
「ん? どうした?」
「こっち、来る」

 手招きするにザックスは首を傾げて、それでも素直にの許に近付いた。
 すぐ傍まで来るとはザックするの手を掴み、クラウドとは反対隣に座るようザックスを促す。それにザックスは困ったように笑ったけれど、いつになく強引なの様子に折れて素直に腰を下ろした。隣り合うの熱が伝わる。

 は満足そうに笑った。表情の変化があまり見られないが見せた、はじめての時とは違う意味での、極上の笑顔だった。
 これにザックスは呆けた。ぽかんと半口を開けて間抜け面を晒した。そしてまるでこの隙を突くかのように、がザックスの腕に自らの腕を絡めて、引いた。予期せぬ事態にザックスの身体は抵抗する間もなく傾き、頭をの肩に預けることで止まる。絡められた腕の力は思いの他強く、固定されて起き上がることができない。

「お、おいっ! !!?」
「ザックス寝る、わたし見張る」
「俺は大丈夫だから! こそ ―――」
「無理、嬉し、ない。ザックス、クラウド……護る」

 すぐ間近にあるの顔が柔らかく微笑んで、ザックスを見た。
 片手は膝に乗るクラウドの髪を撫でて、もう片手はザックスの腕だけではなく指先とも絡まる。

 これはもう梃子でも動かないだろう。そう確信したザックスは諦めたように息をつき、肩の力を抜いた。
 半身が触れる他者の熱がどうしようもない安堵を与えてくれる。一日のほとんど触れているクラウドのものとは違う、女性特有の柔らかさを伴う温もりにこれまで張り詰めていた緊張が解かされる。

 更に大きく息をつけば全身から力が抜けて、ザックスの身体はに預けられた。
 重いかもしれないと思ったけれどとても心地よ過ぎて、離れたくない。指先の絡まる手に力を込めてみれば応えるように握り返されて、言葉にならなかった。ザックスは甘えるようにに擦り寄る。

「今のって、お袋みたいだな」
「おふくろ……?」
「母親ってこと。すげー安心する。……逢いたくなってくる」

 最後に小さく呟かれた言葉はゼロ距離にいたからこそ拾うことができた。
 ザックスが初めて見せた、弱音だった。
LULLABY
こもりうた
20071011 → 20080205