客の出入を報せるベル代わりのように、店の扉が開閉の度に軋んだ音を上げる。

「とうちゃん、おかえりな ――― !」

 入って早々、勢いよくこちらに駆けて来たマリンにクラウドは驚いた。
 しかしクラウド以上にマリンが驚きを露わにし、慌てて方向転換すると足をもたつかせて、丁度カウンターから出てきたティファの陰に逃げ込んだ。クラウドのことを父親のバレットと勘違いして抱き付こうとしてしまい、照れているのだ。
 そんなマリンの様子にティファはくすくすと笑い、ジェシーとビッグスも食事にがっつくウェッジを尻目に微笑ましく見た。

「おかえりなさい、クラウド」
「……は?」

 一般客がバレットによって追い出され、アバランチのメンバーしかいなくなった店内を見回してクラウドは訊ねた。
 その言葉に、ティファはあからさまに呆れた表情を浮かべて盛大にため息をつく。幼馴染のその反応にクラウドは眉間に皴を寄せた。

「あのねぇ、人が「おかえり」って言ってるんだから、ここはまず「ただいま」って返すべきでしょう? それなのに帰ってきて第一声が「は?」って、はあ……」
「……悪かったな」
「そう思うんだったらはい、おかえり」
「……ただいま。それで、は?」

 全然わかってない、とティファは呆れ過ぎてもう何も言う気になれなかった。
 一方でティファが望むとおりに応えたのに白い目を向けられることになったクラウドは不服そうに顔を顰めるも、ティファの答を待って何も言わなかった。

「クラウドたちが出て行ってからずーっと二階にこもりっ放しよ。不機嫌そうにこーんな顔してたんだから」

 の真似なのか、「こーんな」と言いながら眉間に皴を寄せて見せるティファをしかしクラウドは碌に見もせず、脇を抜けて奥の階段に向かって行った。それにまた、ティファは呆れてため息をつく。

「本当に、全然わかってないんだから」

 ティファの呟きにアバランチメンバー三人は深く頷く。
 直後に扉が一際大きな軋みを立てて、今度こそマリンが帰宅した父親へ元気に駆け寄った。
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いぞん
20071011 → 20080204