すべての神羅兵を斬り伏せ、銃弾が掠めた足を庇いながらザックスとクラウドの許へ駆け付けたは、目の前に広がる光景に言葉を失った。きつく握り締めていたはずの刀が手から滑り落ちる。
 刀が地面に落ちたその音に、雨が降り出した暗い空を仰いでいたクラウドが反応して、ゆっくりと振り返った。

 クラウドの頬や髪の毛は血に濡れていた。伝う雨水が薄く染まっている。
 これまで空ろだった瞳は焦点こそ定まっているものの空虚で、何の感情も宿していない。雨水なのか涙なのかわからない雫が髪から滴り頬を流れ、血を落としていく。クラウドの血ではない。クラウドが立つ場所を中心に転がる息絶えた神羅兵たちの血だ。

「クラ、ウ、ド……」

 は一歩、踏み出した。クラウドはただ瞬きだけをしてを見つめる。
 その時、はクラウドの向こう側に見えた姿に息を呑んだ。クラウドの許へ向かうはずだった足がクラウドの脇を擦り抜け、彼の許に駆け付けた。

「ザックス!! ザックス! ザックスッ、ザックスザックスザックス!!!」

 左胸に洞をつくり、開いているだけでどこも映してはいない瞳を前には何度も呼び掛けた。だが反応は得られず、触れた肌はぞっとするほど冷たい。咄嗟に引き戻した指先からその冷たさがどんどん感染して、は息を呑んだ。

 決して楽ではなかったここまでの道中、自分だって辛いはずなのに常に笑って自分たちを励ましてくれていたザックスが、笑わないのだ。の無茶を叱らなければ心配もしてくれない。時々弱気になって、ごめんなんて言いながらに寄り掛かってくることもない。
 クラウドに話し掛けて反応があると嬉しそうに笑ったり、乱暴な手付きで頭を撫でたり、自分こそ無茶をしてこちらを心配させたり、しないのだ。

 ガラス玉となった碧はもう、何も映さない。
BLANK
うろ
20090409